ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

【第603回】破天荒な次男坊ベルト

 一周忌の法要も無事に終わった。今回は力道山のお墓には寄らなかった。翌日、佐山さんからの誘いで『鰻倶楽部』(仮称)の第5回集会…以前から気になっていた目黒不動尊の『八ツ目や にしむら』へ行く。千住の川魚問屋松本から仕入れた国産最高級うなぎを紀州備長炭で焼き上げた特上うなぎは絶品でした。波打つ重ね鰻の群れに「これはすごい。美味い」と佐山さんも絶賛。

特上うな重は6000円なり。

そのあと下丸子でお茶をして約3時間、楽しいお話をしました。同行してきた長男の聖斗さんとは初対面だった。超イケメンは父母の名血を引き継いでいるなあと感心。ハートも父に似て素晴らしい。私と佐山さんが1つ違いで、同じ一人息子は3つ違い…家族構成が同じだったのに、私には妻がいないなあと思った。だから佐山さんは私にとても気を遣ってくださる。佐山親子と別れた後、私は横浜へ行って映画を観た。『モリコーネ ~映画を愛した音楽家~』。モリコーネは私の尊敬するマエストロ…2年前に他界した映画音楽の巨匠に最期の5年間密着し、様々な貴重映像を織り交ぜて恐ろしく手間をかけて編集したドキュメンタリーだった。私のプロレス編集者としてのマエストロは竹内宏介氏だが、映画好きな竹さんにとってもモリコーネはマエストロだった。「ああ、この映画、竹さんにも観てほしかったなあ」…一緒に観て、そのあとずっと語らいたかった。モリコーネの尊敬するクエンティン・タランティーノ監督が「彼は映画の音楽家という域を超越している。彼はモーツアルトであり、ベートーヴェンであり、シューベルトなんだよ」と大絶賛する。それに対してモリコーネは「それがわかるのは200年先だよ」と呟いたという。おそらく200年後の地球人たちは、クラッシックとしてモリコーネ作品を聴き、今と同様の賛辞を送っていることだろう。映画音楽としてだけでなく、音楽や作曲に興味のある方は是非、ご覧になってほしい映画である。

さて、今年はサルバドル・ルテロ・ゴンサレスがルチャ・リブレを旗揚げして90年目の節目の年である。私はこの90年に何か貢献できただろうか。今年のアニベルサリオは久々に渡墨したいと思っている。ルテロ・ファミリーが四代で築き上げたEMLL(現CMLL)において、最大の危機が1975年のインディペンディエンテス(UWA)の旗揚げだった。

1月29日、パラシオ・デ・ロス・デポルテスでの旗揚げ戦のメインエベント=アニバルvsレネ・グアハルドの世界ミドル級選手権で使われたベルトは何とEMLLの管理するNWAのベルトであった。偶然だが同じ1月29日…47年後のこの日、東京巣鴨『闘道館』の『第3回チャンピオンベルトカーニバル』に、そのベルトがやって来る。

60年から6度巻いたベルトをグアハルドは返却拒否。

 NWA世界ミドル級王者だった大帝レネ・グアハルドが前年(74年)夏、モンテレイでUWAの前身「ディビシオン・デル・ノルテ」の狼煙を上げたため、EMLLは彼から王座をはく奪するが、グアハルドは円盤型のベルトを返却せず、そのベルトで独自の防衛戦を始める。それに対してEMLLは空位の王座の決定戦を9月20日のアレナ・メヒコで行う。度重なる催促にも関わらず、当日までベルトが戻って来なかったため、仕方なくライトヘビー級のベルトを使って誤魔化し、決定戦を決行する。EMLLはタイトルの正統性をアピールするためにセントルイスからサム・マソニックNWA会長を立会人として招聘し、新王者のアニバルの腰に(ライトヘビー級の)ベルトを巻かせた。

ライトヘビーのベルトでミドル級王座決定戦。新王者アニバルをマソニック会長が祝福。

 その後、EMLLは慌てて新しいベルトの作製を名匠マヌエル・サバラに依頼する。そして出来上がったのが73年7月20日、ヒューストンで初お目見えした5か国の国旗をあしらったベルト(同日レイスからブリスコに移動)と同型の、いわゆるレイスモデルだった。つまりこのミドル級ベルトはヘビー級に続くレイスモデルの第2作目で、メキシコにおいて初めてお披露目されたものということになる。初使用は74年10月31日のアレナ・トルーカでのアニバルvsアンヘル・ブランコの防衛戦。ところが王者アニバルはこの新ベルトを持ったまま1ヵ月後に新団体UWAへジャンプしてしまうのだ。その旗揚げ戦で新ベルト王者アニバルと旧ベルト王者がタイトルマッチをしたというのだから前代未聞の出来事だったといえよう。

例えるならば、日本プロレスを追放されたアントニオ猪木がUNヘビー級のベルトを返却せず、新日本を旗揚げしようと画策…日本プロレスは新しいベルトを作ってジャイアント馬場に巻かせたら、馬場がそのベルトを持ったまま、新日本の旗揚げ戦に参戦し、メインで馬場の新ベルトに猪木が挑戦するというUN戦が組まれた…というようなこと。日本だったらとってもあり得ない話だが、現実にメキシコでそれと同等の破天荒な事件が起きたのだ。そして3月には新旧ベルトの統一戦までやった。他団体のベルトを2本も持ち去って、それを使って商売をするという超破天荒な事を新団体がやってのけたのだ。今回登場するレイスモデルのNWA世界ミドル級ベルトは結果、使用期間こそ約1年と短いが、そういう時代の荒波の中を泳いだ「いわくつきのベルト」なのである。

これが今回登場するサバラ製のレイスモデル。

 その後、EMLLはミドル級の2号ベルト(レイスモデル)を作成したためにこの1号はグアハルド家の家宝として大事に保管された。よってコンディションは極めて良好だ。訳があってミドル級のベルトは3号まで作られる(理由はGスピリッツVol.48に掲載)。その3号ベルトを巻いたのが79年のサトル・サヤマと84年のグラン浜田である。レイスモデルはヘビー級が1本、ライトヘビー級も1本、ミドル級が3本、ウェルター級は2本…つまりサバラは計7本しか同型ベルトを作っていない。だからレイスモデルはどれも貴重品なのだ。ヘビー級…いわゆる「10パウンズゴールド」はWWEのアーカイブ部門が保管しているので、手が届かない所に行ってしまったが、レイスモデル7兄弟の次男坊がやって来る。メキシコ最古の世界タイトル…NWA世界ミドル級のチャンピオンベルトをルチャ・リブレ90周年史の時代の目撃者として、29日にさらなるディープな考察を加えたいと思う。

チャンピオンベルトカーニバル

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