ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

【第644回】アジア遺産(2)

 先週の続きでアジア・タッグのことについて書きたいと思う。さて、今回はアジア・タッグのチャンピオンベルトそのものについて書こうかな。私が実際にこのベルトに触れたのは1998年に『検証 チャンピオンベルトの謎』という増刊号を作る時、全日本の事務所へ行き、インターのシングル・タッグ、力道山のアジア・ヘビーや初代インターなどのベルトを出してもらい、ビルの屋上へ持って行って撮影した(別の日、新日本の事務所でも同じような撮影をした)。あまりにベルトの数が多かったので、アジア・タッグのベルトをゆっくり観察していない。他に全日本でのアジア・タッグの試合は何試合が取材に行っているけど、特別にベルトを観察した記憶がない。次に再会したのは、ずっと時代が下って2017年4月22日の湘南プロレスの横浜ラジアントホール。当時、チャンピオンだった大仁田厚(パートナーは渕くん)が持参していて自分の売店に置いてあったから、薄暗がりで勝手にいじくっていた…。あったのは大仁田の1本だけ。そして先月、井上さんのトークショーで闘道館に2本ベルトが揃って来た。今度こそはと『チャンピンンベルト・カーニバル』主催者という目線でじっくり観察した。

大仁田はピカピカに磨いていた。

 それで改めてわかったことがいくつもあった。まずデザイン。昔からずっと「向かい獅子」だと思い込んでいたけど、羽根のついたドラゴンだったんだね。キングギドラというよりもドドンゴ(ウルトラマン第12話“ミイラの叫び”に出てくる怪獣)に近い。ドドンゴは四つ足の龍だったが…。アメリカのベルトはレスリング像か鷲がデザインされることが多い。アメリカのシンボル…国鳥がハクトウワシだからであろう。それに影響されて日本製のベルトにはよく鷲が出てくる。力道山が1955年11月にキングコングを破って締めたオール・アジア・ヘビー級の大盤の楕円形ベルトも鷲だった。アキバ徽章、松本徽章など主にトロフィーやメダルなどを製造するメーカーに発注すると鷲がデザインされることが多い。新日本御用達の吉永プリンスも同様だ。「鷲、王冠、地球、星」は必須のようである。文字以外のデザインを業者にお任せにしてしまうともれなく鷲が出てくる。ところがこのアジア・タッグはそれらとは一線を画す。「アジアだから龍で…」としっかりした意図がデザインに表れているのが素晴らしいと思った。向かい合った龍が玉に握っている。地球かと思ったら、その玉には日本、朝鮮半島、中国大陸、東南アジア諸国、インドに至る東アジアの地図が描かれていた。なかなか凝っている…。

向かい合わせの龍が玉を…。

 チャンピオンベルトに限らず、メダルや優勝盾などによく用いられるのが月桂樹やオリーブの葉。それらは地中海が原産地で月桂樹はアポロン神話の聖なる霊木として崇められた。そのため古代ギリシャやローマの競技大会の勝者に月桂樹の枝や冠が授けられた。それはチャンピオンベルトの輪郭部にデサインとして用いられたり、ワンポイントのデザインとして挿入されるケースが多い。このアジア・タッグベルトの中央にも月桂樹らしき葉がワンポイントに挿入されている(ここは雲がよかったと思う)。ただ、このベルトは特徴として月桂樹が輪郭に使われていない。ベルトを作る時、中央プレート、サイドプレートなど金属を切り落とした断面の処理は一番苦労する箇所で、レジー・パークスの初期作品などはカットされた部分は怪我しないようにヤスリで削っている。65年に先行して造られたインターナショナル・ヘビー級のベルトはメインプレートを月桂樹等でサイドをカーブのある外枠で巧妙にカバーされている。ではアジア・タッグのベルトはというと、メインもサイドも四角い模様の外枠が施されている。私はこの模様は「雷紋」をデフォルメしたものだと思った。「雷紋」とはラーメンのどんぶりでお馴染みの四角い渦巻き模様のこと。中国では古来、雷鳴、稲光、稲妻は恐れ崇められた神。雷紋とは、それらをモチーフにしたもので、鬼を迷路に誘い込む魔除けの意味がある。ラーメンドンブリの淵に描かれた雷紋を、ベルトの淵にデザインしたとしたら、それはそれで素晴らしい発想ではないか。これもまたアジアを意識した見事なデザインだと思う。竜神と雷神が同居するアジア・タッグのベルトは68年に大木金太郎によって復活した2代目アジア・ヘビー級のベルトよりも「アジア」そのものを見事に表現している傑作といえよう。

淵取りの部分は雷紋か…。

さらに言うなら、先輩のインターナショナルのシングルよりも、しっかりしたテーマを持ってデザインされたものということがわかる。これは日本プロレスの宣伝部長だった押山保明氏が手掛けたものであろう。押山氏は10代で映画監督を経験し、日活の宣伝部、映画プロデューサーを経て東宝の芸能部など転任…力道山にスカウトされて日プロに入って宣伝部長として活躍したやり手。私が4週前に触れた“アリゾナの殺人鬼”や“狂えるメキシコの巨象”、“シベリアの密林王”のこと…櫻井康雄さん以前、こうしてプロレスラーのニックネームを付けていたのは押山さんで間違いあるまい。地名が出てくるそれらのニックネームには昭和の映画人・宣伝マンならでは匂いがする。アジア・タッグのベルトにも映画人・押山保明のそうした発想力、デザインセンスが詰まっていると私は思うのである。それともう一つ…今回、2本のベルトを並べてみてわかったのは、僅かであるが長さが違うのである。僅か数センチの差なのだが…。長い方はベルトの穴が8つ、短い方が7つ。短い方は最初6つで、あとから1つ無理やり開けたような感がある。造られた66年当時、吉村と大木の腹回りを計ったから長さが違ったのだろうか。猪木さんが締めたのは、長い方だったのか。大熊さんはこっちであろう。短い方に穴を足したのは内側になので、胴回りが細い選手のためということになる…それって誰だろうか…。いろんな想像をするのも楽しい。

長いベルトの穴は8×2個。
短いベルトの穴は7×2だが…。

 ああ、明日は久しぶりに町田にある室蘭ラーメンの名店「雷紋」にでも行くかな…。

-ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅