ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

【第657回】ドームへの誘い

5月6日、東京ドームで“モンスター”井上尚弥(大橋)vs“悪童”ルイス・ネリ(メキシコ)の4団体統一スーパーバンタム級タイトルマッチ他、3つの世界タイトルマッチが正式決定した。ボクシング界にとっては1990年2月11日のマイク・タイソンvsジェームス・ダグラス以来34年ぶりの東京ドーム興行とあって注目を浴びている。近年では2年前にキックでは那須川天心vs武尊がドームでやっているものの、現在ボクシング解説をしているような元世界チャンピオンたちの世代は「ドームでボクシングやるなんてどんな感じか想像できない」と語っている。そうか…34年前だからなあ、と思う。無敗のタイソンがダグラスにまさかの10回KO負けした世紀の番狂わせ…私はドームで取材している。実はこの前日夜、新日本プロレスが『2・10闘強導夢』を開催していた。ボクシングのドームは米国東部のゴールデンタイムに合わせてお昼からの開催(開場は午前10時)。プロレスのドームからボクシングのドームが半日後に行われたことになる。私は徹夜明けでドームへ…客席には前夜、スタン・ハンセンとのIWGP戦で目を大きく腫らしたビッグバン・ベイダー、北尾光司のデビュー戦で敗れたバンバン・ビガロ、サルマン・ハシミコフを破って全日本行きを決めたスティーブ・ウイリアムスらの姿があり、タイソンのまさかまさかのKO負けに唖然としていた。

ベイダーらがタイソンKO負けを目撃。
タイソンがまさかの10回KO負け。

ボクシングの東京ドーム開催はこれが最初ではない。88年3月21日、ドームのこけら落としでマイク・タイソンvsトニー・タッブスの世界ヘビー級タイトルマッチが行われた。この時、日本スポーツ出版社には『ワールドボクシング』という月刊の専門誌があったが、発売日の関係でタイソン戦を載せようとすると大幅に遅れてしまう。それならば、週刊ゴングにタイソン戦を載せようということになった。それがどこよりも早くタイソン戦の詳報を書店に並べられる唯一の方法だったからである。そのために中カラーの16ページをタイソン戦にあて、表紙にもタイソンの試合を入れた。こうした速報の荒業は週刊では日常茶飯事だったが、やはり特別感はある記憶に残る一冊だ。プロ野球が開幕する前にドームに入れて取材出来たのは、かなりの優越感だった。

アリと猪木の再会が表紙。タイソン戦16ページ。
中カラー16ページはタイソン戦だった。

この日のゲスト陣も超ゴージャス。ボクシング界からはモハメッド・アリ、シュガー・レイ・レナード、アレクシス・アルゲリョ、白井義男、ファイティング原田、具志堅用高…他、元世界チャンピン20人がずらり。野球界からは解説の長嶋茂雄、田淵幸一、山本浩二…。芸能界からは三船敏郎、勝進太郎、菅原文太、薬師丸ひろ子、近藤真彦…。プロレス界からはジャイアント馬場、アントニオ猪木、ジャンボ鶴田、前田日明…。この顔ぶれを見ても当時のタイソンの世界的な知名度はもちろん、日本初のドームってどんな所という期待もあったように思う。私も初めて入ったドームに興奮した。やたらと広い。そして「いつか、ここでプロレスが出来たらいいな」と思った。猪木も、馬場も、そう思ったに違いない。「どんなカードを持ってくれば可能か」と。私はその日のためにバックヤードをウロウロして、記者席、控室の位置やリングまでの導線、距離などをリサーチした。それは編集長になった翌年の春に活きる。新日本『’89格闘衛星 闘強導夢』(4月24日)…ここからプロレスのドーム伝説が始まる。お陰で札幌、名古屋、大阪、福岡…日本中のドームで取材することも出来た。いい時代にいい仕事が出来た…。

プロレス初のドームは89年4月24日。

バブルな時代だったとは思うが、その後もいろんな団体がドームを成功させ、新日本は毎年1月4日に東京ドームを開催し続けている。これってすごい事だと思う。34年ぶりのボクシング界よりもプロレスのほうが興行的パワー、マッチメイクの豪華さ、そしてお客が呼べるタレントが揃っていた。ボクシングは日本人の世界チャンピオンたちが民放のお抱えになっていたことで複数の世界戦を組むことが出来なかったこともあるし、やはり日本人タレントが不足していた。もしフロイド・メイウェザーvsマニー・パッキャオをドームでやったらどうだったであろうか…。いや、こういうスーパーファイトをやれるプロモーションは米国が独占していたから日本開催は無理か…。そういう意味で日本人ボクサーをメインにドームを埋めるということはボクシング界の悲願だった。渡辺勇次郎が1921年に「日本拳闘倶楽部」を開設して100余年…史上最強の日本人ボクサーが現れた。井上尚弥はトップランク社と契約し、PFPにおいても1位になった世界中がモンスターと称賛する孤高の逸材…彼だからこそ、ドーム進出の悲願を成し遂げられたのだろう。

日本プロレスの役者が揃った表紙です!

GスピリッツVo.71は27日(水)発売。日本のボクシングは103年だけど、プロレスは70年…そう特集は『日本プロレス70周年』です。これは読みごたえあるぞ。あと2週間のカウントダウン…お楽しみに。

-ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅