先週、亡くなった浜田さんの思い出話の中にエル・ソリタリオのことを書いたら、それを読んだある競馬関係の出版社のお偉いさんから「ソリタリオは格好良かったですねえ。あんなに絵になるレスラーはいませんよ。立ち姿にオーラがあるんですよ。大好きでした」というお声掛けをもらった。こういう声は今まで数多く受けて来た。ライガーも「ソリタリオが大好きでしたよ」と言っていたね。ライガーに限らずメキシコでも現在、60台のエストレージャOBや既に亡くなったスター選手たちが口を揃えてそう言う。「ソリタリオほどカッコいい選手はこれまで見たことも会ったこともない」「強いし、男前だし、ああいう選手になりたいと思ったよ」「カメラを向けられた時に自然に取るポーズが見事なんだ」…ソラール、ビジャノ3号、リンゴ・メンドーサ、ネグロ・ナバーロ、ドクトル・ワグナー・ジュニア、ブラソス…ソリタリオに心酔した者を数えたらきりがない。私と昨年トークショーをやったフエルサ・ゲレーラやローリンも異口同音に「一番憧れたのはソリタリオ」と言っていた。ルチャ90年の歴史の中で、こんな慕われた孤高のルチャドールが他にいただろうか。

ミル・マスカラスが太陽ならば、ソリタリオは月…対局の所にいる。ソリのたたずまいはマスカラスのようにビルドアップされた人工物でなくナチュラルなのだ。日本はともかくメキシコでは圧倒的にソリタリオ信者が多い。メキシコの場合、マスカラスと比べるとのではなく、エル・サントと比べるようだ。ただサントは崇拝の対象であって憧れとは違う。ソリは羨望の眼差しを向けられる大俳優…金と銀でも立ち位置が異なるように思える。一昨年、ルチャ雑誌に関わるメキシコ人が『闘道館』にミル・マスカラスの写真を持ち込んだ。いわゆる紙焼きの生写真というやつだ。『闘道館』ではそれらを買い取り、販売したのはHP等でご存知だろうか。その後、エル・サントとレイ・メンドーサの生写真も持ち込まれた。私は泉館長に依頼を受けて、それらの写真をすべて鑑定してきた(年代や撮影場所などを割り出す)。そして今度、『闘道館』はエル・ソリタリオの生写真が入荷したのだ。それらも総チェックした。その数(種類)は約400点。カラーもあれば、モノクロもある。それらを分析するとバレンテ・ペレス代表の『ルチャ・リブレ』誌の写真のようだ。雑誌に使ったものもあれば、未使用のものもいっぱいある。年代的にはデビュー当時の60年代後半のものから80年代の初頭までと幅広い。ほぼ、キャリアのすべてを網羅している。とても貴重なものばかりである。


週刊の『ルチャ・リブレ』誌は試合写真の掲載が毎週2ページだけ。他の大半は野外ロケや自宅、スタジオなどのポーズ写真ばかりで本を作っていた。他の専門誌も似たり寄ったりだ。私が前々回のポーズ写真のネタで書いたようにメキシカンのポーズを作るのが上手い。その中でもソリタリオのそれは秀逸だ。それはファイティングポーズに限らず、私服のプライベート写真でも自然に取るポーズはお見事としか言いようがない。リングコスチュームも格好いいが、私服も他の選手とは違いシックでエレガントだ。よく一緒にショッピングに行ったが、彼が選ぶのは黒か茶色など落ち着いた色ばかり。家を出る時には、すごい時間を掛けて鏡の前で着こなしをチェックし、気に入らないと着替えてしまうこともあったし、「トマス、どう思う?」と意見を求められることもあった。

私は81年と82年にメキシコシティのビスカイーナス通りにあるソリタリオのアパートに居候していた。今回の写真で驚いたのは、その室内での写真がいっぱいあったことだ。彼は家族をグアダラハラに残して単身赴任していた。アパートは日本でいうところの2LDK。リビングは広く、2つのソファーがあった。このソファーがズズっと伸ばすとベッドになる。「トマス、今日からここで寝なさい」と与えられた私の空間だった。だから、今回そのソファー&ベッドが映っていて、あまりに懐かしくて感激してしまった。

ソリに聞けば、私の前に若き日のソラールが居候をしてこのベッドを使っていたらしい。私の後には、後にゴングの編集部員になるペペ田中君を始め後輩たち、それにスペル・アストロも使用したようだ。もう一つ、懐かしいと思った写真がソリタリオの部屋だ。四角い部屋で窓はない。大きなベッドに本棚、壁にはUWAのベルトが飾られていた。押し入れ部屋には私服、シャツ、ネクタイ、靴、コスチューム類がいっぱい入っていた。ソリタリオは、この部屋で一人静かに過ごすのが好きだった。私が日本に帰り際にソニーの録音用の小型カセットレコーターをプレゼントしたら喜んで、翌年訪れた時に部屋でビセンテ・フェルナンデス(マリアッチの帝王)を聴いていた。

そしてもう一つ懐かしいのが愛車のポンティアック・ファイヤーバード・トランザムだ。黒いボディーに金色のライン、ボンネットに火の鳥が翼を広げる。完璧なソリタリオ・カラーのスポーツモデルである。それがとてもよく似合った。グアダラハラの自宅には、その前に購入した真っ赤なムスタングがあつた。私はこれを運転させてもらったが、黒いトランザムの方は運転していない。メキシコシティの渋滞&猛スピードの交通事情では怖くて無理。それにこの車、加速は恐ろしいが乗り心地は…。その上、故障ばかり。メヒコに部品がないのでなかなか直らない欠点があった。私が85年、同じ黒にゴールドのストライプの入ったピアッツァ・ネロを購入したのは、このソリタリオ号が引き出しになっている。日本に来たらソリを乗せたかったが、それは叶わなかった。

他にいろんな時代のポーズ写真がいっぱいある。カラーだけでなく、モノクロームの世界がこれほど似合う男は世の中にそうはいまい。ロケ地はロサンゼルス、スタジオ、ソナロッサ、グアダラハラの自宅と家族、グアダルーペ寺院、ジムでのトレーニング風景など様々。これらを集めればソリのマスクの変遷や謎に包まれたプライベートも手に取るようにわかるというもの。ということで、『闘道館』さんでは、本日から、これらのソリタリオの生写真を販売開始することになる。一気にではなく、準備できたものから売り出して行くとのこと。死して39年、ソリタリオの世界を満喫してほしい。
