ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

【第620回】薬と戦った者たち

今年のダービーは悲劇だった。2番人気のスキルヴィングが直線で失速し、ゴールを17番目で入線した直後に転倒して急性心不全で即死した。目の前で観ていた私は言葉を失った。このコラムで昨年7月28日にアップした「私と馬(1)」を憶えていてくれるだろうか。あの60年前の悪夢が蘇ったよ。生き物の命は尊い、その一方で命は儚い。一寸先は闇である。

ダービーは久しぶりの有観客で。しかし、惨事が。

先週書いた「恐竜の種明かし」には、いろいろご意見を頂いた。レスラーたちの命も儚い。ビリー・グラハムを思い出すとき、竹内さんとウォーリー以外にも浮かんだ人たちがいる。一人はマイティ井上さん。1974年にグラハムが初来日した時にIWAの新ベルトに挑んだ国際プロレス期待の星。そしてその期待に応えて恐竜を攻略した。そうだ、井上さんに電話してみよう。

「グラハムですか。あれは昭和49年で49年前ですよ。俺は25歳。グラハムは35くらいに見えたけど、亡くなったのは79だとすると、あの時彼は30だったんだなあ。ジェリー、エディ、ルークは知っているけど、ビリーなんているのは、日本に来るまで知らなかったよ。あんまり器用な選手じゃなかったよ。でも手足が長くて確かにパワーはあった。薬をやっていたのに79まで生きたというのは、長寿なんじゃないかなあ」

井上さんを担ぐビリー・グラハム。

もう一人、浮かんだのがミル・マスカラス。WWWFのベルトを懸けて戦ったことは先週触れた。こちらも連絡してみよう。

「70年にロスで戦ったことも、78と79年にMSGで戦ったこともよく憶えているよ。ストロイドで作った身体の男にナチュラルボディの私が負けるわけにはいかなかった。あれはMSGではなくワシントンD.C.だったか…グラハムと試合した時に反則勝ちかなんかの結果が出た。そうしたら試合後にビンス(シニア)が控室に来て“このベルトを持っていくか。もうこのベルトは使わないから”って、別にいらないと思ったけど、そのWWWFのベルトをメキシコに持って帰った。それ、自宅の倉庫の何処かにあるよ」。

マスカラス戦のベルトは青だった。

 えええっ、本当かな。70年代にニキタ・マルコビッチ製のWWWFベルト(WWF)は、かなりの本数あるのだが一本も現存が確認されていない。ちなみに王者グラハム時代だけでもエンジ革→青革→エンジ革と3つが確認できる。その1本がマスカラス宅にあるだって!う~ん、俄かに信じがたい。昨晩の『開運!なんでも鑑定団』でビリー・グラハムのベルトが出てきて、泉館長が偽物と即断…ブルーノとグラハムの偽サイン入りで3万円と鑑定(日本製。まさにその額で正解です)。それで「本物のWWFベルトなら500万円はします」と館長。おーっ、ならば「500万円だから、鑑定団にゲストで出る?」ってマスカラスに言ってみようかな…。

マスカラスvsグラハムの攻防。

 それはともかく、井上さんもマスカラスもグラハムがステロイドで造った身体なのに長生きした点を指摘していた。なぜだろう。ステロイドといえば、この人。自身もニューヨークで5年間、ステロイドを打って、いまなお後遺症に悩まされているキム・ドク。この人にビリー・グラハムについて聞いてみよう。

「先日、新間会長の米寿の会には呼ばれていたけど、寒かったので急遽行くのを止めたんだ。迷惑かけたくなかったんでね。俺、心臓発作に対処するためにニトロを常備しているんだよ。でももう今は大丈夫…。で、グラハムのこと?俺が73年にロスに行った時にグラハムはいたよ。シスコから戻って来たらしい。ルーク・グラハムもいたな。ロスでは敵味方だったけどさ、一緒にゴールドジムで練習したよ。その頃はあんなムキムキではなかった。俺はオクラホマからテキサスを経て75年にAWAに入った時にグラハムはもうAWAに居たよ。真っ黒のボティに内装が真っ赤なコルベットスティングレーに乗っていたな。もう日本(国際)に行った後だろ。びっくりしたのはロス時代と違ってマッチョマンになっていたよ。つまりAWAに入ってからステロイドを始めたってことだよ。ちょうどその少し前あたりからレスラーたちの間でステロイドが流行ったんだよ。その頃、俺はまだやっていない」

AWAでワフーとアームレスリング。

 ステロイドが原因で早死にする選手が多い中、なぜビリー・グラハムは80近くまで生きられたのか、ということになる。その前にどのようにステロイドを投与するのか、改めて聞いてみよう。

「だいたい5週間に2回のペースで投与するんだよ。ケツに注射するんだ。筋肉に打つとヤバい。だから肉の無いケツに打つんだ。それですぐにジムへ行って2~3時間練習するんだよ。練習後には卵の白身やリンゴ、プロテインなどの摂取するわけ。筋肉にタンパク質とかの栄養を与えるためだよ。何するとヤバいかって?一番いけないのは深酒だよ。ジェイ・ヤングブラッドなんてバカ飲みして死んだだろ。去年、アメリカでホーガンに会ったけど、身体が一回り小さくなっていた。でも元気だったよ。去年で65かな。もうとっくにステロイドは止めているよ。それであまり酒は飲まないようにしているらしい。グラハムもステロイドを止めてから健康に気遣ったんじゃないかな。とにかくあまり心臓に負担をかけないことだよ。食事にも気を付けてね。ステロイドは筋肉増強剤だからさ、心臓も筋肉だから、心臓まで肥大してしまうんだ。俺の心臓も薬を止めたのにすごくデカいままだったからな。それで今度は狭心症に悩まされた。グラハムも健康に気を付けて晩年を過ごしたんだろう。それでも79は若いよ。俺が今、75だから…もう少し頑張って生きて、グラハムの記録を抜かないとな(笑)」

昨夏、アメリカでホーガンと再会。

絶滅しないよう恐竜の分まで頑張って生きてください。

 

 

-ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅