ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

【第578回】1対3と秘宝

 土曜日のイベント『ビバ・ラ・ルチャVol.45』は、喋って歌って、さすがに疲れました。頑張ったというか、頑張らされたというか、てんこ盛りにしすぎて、3時間の予定が4時間のロングバトルになってしまいました。ご来場されたみなさん、大変お疲れ様でした。まあ、ネタ的に言えば2ショー必要な内容だったのかも…。駆け足だったけど、ゲストの小林和朋くん(愛称:ヤシクン)の驚くべき多才な人物像がご理解いただけてよかったと思う。

正面テーブルのディスプレイもヤシクンの所持品。

今回のトークで大事なことが欠落していたので、少し補足させてもらう。91年、週刊ゴングの副編集長だったヤシクンが別の編集プロダンションにヘッドハンティングされて退社する時のこと。師匠の竹内(宏介)さんは「もし、ヤシクンが次にやる編集の仕事で、ゴングの写真で使いたいものがあれば自由に使っていいから」と言って寛大に送り出したのだ。彼はその後、新日本プロレスオフィシャルプログラムの『闘魂スペシャル』の編集長として大活躍した。その他いろんなプロレス関連の発行物を出して、我々ゴングスタッフに原稿を依頼してくれた。それが外部収入として潤うという側面もあったし、ゴングの増刊を何冊か請け負って編集してもらってもいる。

それからずっと後になって“ヤシクンがもしゴングに残っていたら、あと10年ゴングの寿命は延びたのでは…”と思ったことがある。ゴング編集長としての彼も見たかった。ただ、竹内さんや私同様、彼にとっても週刊は本当にやりたい仕事ではなかった(それはそれでお互いに頑張ったけどね)。でもヤシクンの才能はそこに留まるより、遥かにスケールが大きく、常に先を見詰めていたのだと改めて思った。「好きな道はとことん極めないと気が済まないタイプなんで」。それが仕事や趣味、あらゆる面に出ていた…彼の人生航路に間違った選択はなかったし、その道程は素晴らしいと感心させられることばかりである。

ヤシクンがマスカラス好きだったというのは、ゴングで10年間一緒に働いていた私も小佐野(景浩)君も知らなかった(目が点…)。たぶん、ウォーリー(山口くん)も天国で驚いているはず…。熱狂したのは1971年の初来日時のマスカラス。それがプロレスにハマるきっかけになったという。トークショーの前日の7月1日はマスカラスの83歳の誕生日だったので「アロンさん、フェリス・クンプレアニョス」(誕生日おめでとう)と祝福の連絡を入れる。

「トマス、元気でやっているか。エスポッサ(ワイフ)を亡くして半年経ったけど、精神的に滅入ったままになっていないか。息子と会話しているか。ちゃんと食事をしているか。栄養は偏ってないか。野菜を採れよ」と矢継ぎ早に私を気遣う言葉が飛び出す。「はい、はい。それより明日、私のトークショーがあって、あなたのファンだったゴングの同僚がゲストで出て、スカイハイも歌うことになって…。それで、そこに集まった人たちや日本のファンへのメッセージを貰えませんか」と頼んだ。

星野戦をTV観戦したというお客さんは5~6名いた。

すると当日の朝、メッセージがメールで届く。当日、会場に来られなかった方、このコラムを読まれている方にも伝えたいので、書き残しておこう。

「愛する日本と日本のファンのみなさん。また、いつの日か、みなさんに会えることを楽しみにしています。みなさん、一日一日を大切に過ごすように。家族(大切な人々)への感謝を忘れずに、あなたの愛を伝えてください。また、その人たちと一緒に居られる時間を大切にしてください」

 というもの。さすが、いい事言うね。聞けば初来日の時には日本からメキシコ(サンルイスポトシ)の両親に毎日、国際電話をしていたという(当時の国際電話は高かった)。それも毎日、毎日である。これはマスカラスに限らずメキシコ人たちは総じてそう。彼らは日本から毎日のように家族に電話していた。日本人は行った切りで旅先から両親や妻子に日々の報告をしたりしない(んっ、私だけ?)。たとえば私がメキシコに長旅していると、「なんでトマスは家族に電話しないんだ。掛け方わからないなら俺が掛けてやろうか」なんて言われることがしばしばある。それほどメキシコ人の家族愛は深い。家族を忘れて仕事に没頭する日本人はおかしいと思われている。メキシコ人って、そういう愛すべき国民性なのだ。だからマスカラスは家族の感覚で私を心配してくれるのだ。ありがたや…。

 ヤシクン話から脱線した。で、彼はこのコロナ禍、50年目にしてマスカラスのマスク収集に突然目覚めた。それで何と、『闘道館』に出た高価なマスカラスの豹のマスクを購入したのだ。今回のショーでは、それをサプライズ公開した。マスカラスが71年の初来日でゴング編集部を訪問した時と、唯一の猪木とのシングル戦で使用したマスクだ。ヤシクン曰く「私にとってミル・マスカラス、アントニオ猪木、そして竹内宏介さんという3人の神が関わったマスクだから、どうしてもと思って購入したんですよ」。なるほど、わかるよ。私もこの「ジャガー神2号」マスクが一番好きで、これが即日売却されたと聞いた時に、“嗚呼、もう会えなくなるのか…”とショックを受けた。でも、それがヤシクンの手に落ちたと知った時、「これ以上の人はいないという所に、あのマスクが行って本当に良かった」としみじみ思った。

豹マスクに再会して幸せの笑顔。

ヤシクンのラブはマスカラス初来日を経て、アントニオ猪木にシフトして行く。78年に小佐野景浩会長と出会って新日本ファンクラブ『炎のファイター』に入会、同FCの編集長に就任して会報作成に打ち込む。8・26夢のオールスター戦を経て、80年には懇意にしてもらっていた新間寿営業本部長の依頼で、彼らは新日本プロレスのパンフの編集を任されるようになる。プロの編集未経験の彼らが、市販の発行物を全面的に任されるなんて凄いとしか言いようがない。主に原稿は小佐野くんが書いて、ヤシクンは得意のレイアウトをしたという。それは『ブラディ・ファイト・シリーズ』に始まり、『闘魂シリーズ』、『第1回MSGシリーズ』…さらには81年の『第4回MSGシリーズ』まで続く(計7シリーズ)。初来日のガイジン以外は、ゴングの写真使ってゴング編集部内で作られた。竹内さんが全日本のパンフを作っていたので、ゴングではその時期に両団体のパンフが作成されていたことになる。

今回のトークショーでは、後半に小佐野クンに登場願った。ウォーリーは亡くなってしまったが、新間さんから「ゴング少年探偵団」(今は初老…)と呼ばれていた三役の揃い踏みだ。それで、イベントの最後にその場から新間さんに電話して11月5日(土)、闘道館でのトークショーの出演をオファーする。そうして『過激な仕掛人vsゴング少年探偵団 1対3変則トークショー』が決定。その前日はあの「猪木vs国際軍団の1対3変則タッグマッチ」(蔵前国技館)から、ちょうど40年目。4日が平日なので、5日(土)午後の「闘道館」を押えたというわけ。

「少年探偵団」の対戦相手は。

「闘道館」では、その前…8月27日(土)にもう一つイベントを打つ。それは『第2回チャンピオンベルト・カーニバル』。近年、これをパクった(?)イベントが地方であったようだが、こちらが元祖(と言っても、やったのはまだ1回のみだが)。2年前の2月9日に第1回CBCを開催して、その後、コロナ禍でずっと様子見していたが、遂に第2回大会が決定した。メインを張るのは新間家所蔵のプロレス国宝「USヘビー級選手権」ベルト。66年11月19日、東京プロレスの大阪球場でアントニオ猪木がジョニー・バレンタインを破って巻いたシングル初戴冠のベルトだ。2004年4月6日オンエアの『開運なんでも鑑定団』で750万円の値が付いた秘宝の登場である。(一度、私のトークショーのゲストが新間寿恒氏の回でも公開したので、正確に言うと再登場)。次にいつ会えるか…これは冥途の土産に是非触れておきたい逸品である。2001年に小佐野くんが手掛けたゴング増刊『サ・ヒストリー・オブ・チャンピオンズ』の中で、このタイトルに関する彼のレポートがある。あれから21年…さらにアップデイトしたUSヘビー級王座の研究成果を当日、たっぷり披露したい。また、その他2本のベルトのラインナップも近日、公開する予定。

アントニオ猪木初戴冠の秘宝ベルトが締められるぞ。

 ということで、月刊ゴング時代からの戦友・小林和朋くんとのトークショーは無事終了。そう、忘れてならないのは初代闘魂実況(元テレビ朝日アナウンサー)の舟橋慶一さんにもご来場いただき、4時間もご覧頂いた。恐縮の至りです。今回のビバラがVol.45だから、馬場さんのPWF防衛記録もとっくに抜いたし、そろそろキラー・トーア・カマタのような挑戦者を見つけるか…。この45回目のヤシクンとの防衛戦は我ながら名勝負だったのではないかという手応えを得た。それはヤシクンの綿密なプロデュースとリードがあってのこと…。彼にオファーしたのは12月、私の妻の通夜に来てもらったときに意思を確認し、コロナの様子を見ながら少しずつプランを練り、前夜までお互いが知恵を出し合う。歌は1週前に音合わせをして、本番直前まで練習していた。そうやって40年ぶりに一緒に作った増刊号…それを誌面ではなく視覚と聴覚に訴えかける三次元トーク&ライヴで作れたって感じかな。お陰でフォーク歌手の気分もステージ上から味わえた。嗚呼、愛しのゴング青春賛歌…。みなさん、ヤシクン、ありがとー!

ヤシクンのギターはプロ級。8曲ご披露。

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