ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

【第579回】ベルトの素性

8月27日(土)のイベント『第2回チャンピオンベルト・カーニバル』の概要が決定した――。

第1回の開催は2020年2月9日、コロナが流行する直前だった。プロレスラーや関係者をゲストにするトークイベントではなく、チャンピオンベルトをメインゲストにしたらどうなるかという発想から始めた企画だ。ベルトは人前で何も語ってくれないが、時に「私の素性を紐解いてくれ」とこっそり語りかけて来るように思えることがある。私はGスピリッツの誌面の中で、何本ものチャンピオンベルトの研究論文を書いてきた。しかし、ベルトはマスク同様に生で見たり、触れるのが一番だと思った。『チャンピオンベルト・カーニバル』とは、実物のベルトを前に、そのタイトルのルーツや変遷だけでなく、ベルト自体の謎を解き明かそうというシンポジウム。そして最後にはベルトを持ってにっこり笑って記念撮影も出来るというイベント…です。

1998年に『検証 チャンピオンベルトの謎』というゴング増刊を竹内宏介さんと一緒に作った。タイトル(チャンピオンシップ=王座)そのものよりも、チャンピオンベルト自体にスポットを当てた内容で、かなり売れた…“みんなベルトが好きなんだ”と手応えを掴んだ一冊であった。ただ調べれば調べるほど、わからなくなるのがチャンピオンベルトの世界で、団体(組織)や地区の絶対的な顔なのに、政治的な背景も相まって、ディープで難解なアイテムだと思った(個人が被るマスクより難しいかも…)。多数の王者に使い回されたり、1本ではなく複数存在したり、張り替えられたり、突然モデルチェンジしたり、変幻自在な動きをする。正解を導き出すのが難しいため「謎」という言葉を増刊のタイトルに入れたのである。

先日、ある食事会へ行ったら、そこにチャンピオンベルトがあった。会合のメンバーの中で唯一のプロレスファンではない年配の方が、そのベルトが現れた瞬間、突然満面の笑顔を浮かべた。そしてスマホを取り出して肩からベルトを下げて写真を撮ってほしいとねだったのだ。チャンピオンベルトは、人を喜ばせる不思議な魅力を持つアイテムだと思った。それがプロレスファンならば、もっとテンションが上がる。ずっと憧れに思っていたチャンピオンベルト…それに直接触れられる、それを巻けるとあれば、テンションが上がって当然であろう。かくいう私も、子供の頃からチャンピオンベルトに憧れた。いろいろ研究もしたし、プロの世界に入っても、“本物の”ベルトを見ると血圧が上昇した。

 タイトルマッチの時、記者席(本部席)にNWAの世界ヘビー級のチャンピオンベルトやAWAのベルトが置かれたりすると、仕事を忘れて眺めたり、触ったりしていた(役得…)。リック・フレアーやリック・マーテルらのスタジオ撮影の時も勝手に記念撮影したりした(役得…)。前述のチャンピオンベルト増刊号を作る時には全日本の事務所の屋上に力道山家のベルトの数々(その時は全日本にあった)、三冠、インターとアジアのタッグのベルトなどを並べて撮影したのを思い出す。あれは至極の時間だった…。新日本の事務所でもNWF世界ヘビーやWWFジュニア、NWA世界ジュニアヘビーのベルトを借りて撮影した。これまた楽しい時間で、印象に残っているのはブッチャーが81年に返上したトリニダードトバゴのベルトも新日本にあったことだった。あの頃は大事なベルトがみんなまとまって保管されていた…。

第1回チャンピオンベルト・カーニバル

 第1回のチャンピオンベルト・カーニバルではNWA世界の登竜門といわれた「ミズーリ州ヘビー級王座」のベルトをメインに、ニューヨークブランドの新日本生まれメキシコ育ちの「WWFライトヘビー級王座」、1964年製造のメキシコ最古のメジャータッグ「アレナ・メヒコ・タッグ王座」の3本のベルトをラインナップした。そして今回の第2回では、先週公表した東京プロレスのアントニオ猪木初戴冠の「USヘビー級王座」をメインに据える。ジョニー・バレンタインが日本に持ち込んだこのベルト…これまでいろんな憶測が飛び交い、結果的にゴング増刊「ザ・ヒーストリー・オブ・チャンピオンズ」の小佐野氏によるレポートで一つの定説に落ち着いた。そこから21年…さらなる長い研究を重ねた末に、それまでの説と違う新説・真説に辿り着いた。今回のイベントでは、謎多きこのベルトの「真のタイトル名」と、そのルーツ、タイトルの変遷を初披露したい。

そしてあと2本のベルトがこちら…。1本は、1983年5月1日、藤波辰巳がカネックからエル・トレオで奪った「UWA世界ヘビー級王座」…そのイグナシオ・キンタナ製のベルトだ。カネックが奪回した試合(6月12日)はテレビ朝日が中継している。そう、タイガーマスクvsフィッシュマンと戦った同日のメインがこのベルトの移動した一戦だ。その後、ベルトはエンリケ・ベラ、ドス・カラスと渡って、金属製の大判ベルトにスイッチする。では、このベルトは初代王者のルー・テーズ、タイガー・ジェット・シン、アントニオ猪木、長州力が巻いたものと同一品なのか…その研究でも意外な結論が出たので当日報告したい。

IWGP期間中に藤波が巻いたUWA世界王座。

そしてもう1本が「WWA世界ジュニアライトヘビー級王座」。1996年に新日本で統一された「ジュニア8冠」の中の1本が今回登場する。第1回で登場したWWFライトヘビー級王座も8冠の一つだったが、今回もその一角が出馬するというわけ。みんなは8本揃って「すごいな」と思われたからもれないが、私はああいう風にベルトを「十把一絡げ」(じっぱひとからげ=いろんな種類のものを区別なしにまとめてしまう意味)にしてしまうのには抵抗があった。この言葉には「一つ一つ取り上げる価値のないものを一つにまとめてしまう」という別の意味もあるらしい。そうであっては本末転倒だ。全日本の「三冠」はすべてヘビー級だが、この8冠は4つ階級のタイトルが混在している。ボクシングの世界でも、階級制度の厳しいイギリスマットやメキシコマットではあり得ない話だ。そもそもジュニアヘビー級以下をすべて「ジュニア」と呼んでいたこと自体ナンセンスだった。三冠ほどメジャーでないにしろ、この8冠の1本1本にも、それぞれの深い歴史がある。あの時代、誰がメキシコWWAの本質を理解していたであろうか。27日の『第2回チャンピオンベルト・カーニバル』では、そこのところからしっかり学んでもらえたら嬉しい。

ジュニア8冠の中で一際輝くWWA世界王座。

チャンピオンベルトとはルーツと歴代王者、歴史背景、権威を理解して、初めて価値を浮き彫りになる。そういう意味で、この3本のベルトは、私たちの研究結果を聞いた前と後とでは、手にした時の重みが違うはずである。8月27日は、そのタイトルとベルトを一緒に学んだ上で、記念撮影に収まってもらいたいと思う。

明日から北へ旅に出るので、来週のコラムはお休みにさせてもらいます。もし無事に帰れたら…再来週にまたお会いしましょう。

-ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅