先週はサラブレッドの血統に絡めてルチャ・リブレ界のファミリーについて書いた。父子、兄弟が活躍する…同一のプロ競技でルチャに近いノリのものがMLB(メジャーリーグベースボール)であろう。MLBの創立は1903年だから、ルチャ・リブレの創設より丸30年早い。ルチャ同様、幼少期から父や兄の影響を受ける環境に育った上、競技に適した類似骨格と遺伝子を持つためか、親子や兄弟のメジャーリーガーは多い。
現在、大谷翔平とホームランダービーを競っているのがゲレーロJr.(ブルージェイズ)、タティスJr.(パドレス)、アクーニャJr.(ブレーブス)の、恐るべきジュニアたちだ。カナダ国籍のゲレーロJr.(22歳)の父ウラディミールは悪球打ちで有名だったが殿堂入りしたスラッガー。私がイチ押しのタティスJr.(ドミニカ)も22歳。天才肌のオールラウンダーで、親子で1イニングに2本塁打したのは史上初の出来事。父親はその2本ともが満塁弾だった。ベネズエラ人のアクーニャJr.(23歳)の祖父と父はマイナーリーグの選手だったが、叔父のホセ・エスコバーはメジャーリーガーだった。この3人のジュニアはMLBの未来を背負うスーパースターなので、みなさん、マークしておいてほしい。
MLBで父も子も超一流だったというなら、最初に挙げるのはアロマー親子だろう。殿堂入りした親に偉大な2人の息子…ルチャドールでたとえるよりも、ザ・ファンクス親子に近い。そしてボビーとバリーのボンズ親子。父は300本塁打300盗塁を達成し、息子は762本のメジャー記録保持者。体型的に言うならドクトル・ワグナー親子みたいだけど、実績からいえばサント親子か。ケン・グリフィーのSr.とJr.は史上初の親子同時リーガーとなり、親子アベックホームランも打った。一緒に親子タッグを組んだということならばラヨ・デ・ハリスコ親子か、ペロ・アグアヨ親子か。
セシルとプリンスのフィルダー親子は親子で唯一、ホームラン王になった。体型的にレイ・メンドーサとビジャノ3号の親子を彷彿させる。クレイとコディのベリンジャー親子…父はワールドシリーズ2年連続優勝、息子は現在ドジャースの主軸バッターで2017年新人王、2019年のMVP。ドス・カラスとアルベルト・リオ親子のような雰囲気がする(これらは、すべてこじつけです…)。
MLBの兄弟プレイヤーはルチャの世界同様いっぱいいる。古くはディマジオ3兄弟、ニークロ兄弟、ディーン兄弟…。近年なら全員キャッチャーのモリーナ3兄弟…彼らはがっしりした体型と武骨な顔つきがビジャノ1、4、5号に似ている。現役バリバリではカイル(マリナーズ)とコーリー(ドジャース)のシーガー兄弟が傑出している。タイラー(ダイヤモンドバックス)とテイラーのモラン兄弟は双子の投手(弟のテイラーはミネソタ“ツインズ”の所属というのも笑わせる)。彼らはMLBでは10組目の双子。メキシコではヘメロス・ディアブロ(ツインズ・デビルス)しか思いつかないけど、ブラウナー兄弟、エルマンソー兄弟、マクガイヤー兄弟、ヘッドハンターズ、ケリー・ツインズ、ハリス兄弟、バラモン兄弟とか…プロレス界にはまだいっぱいいるけどね…。
MLB初の親子孫三代メジャーリーガーはブーン一家。現ヤンキース監督のアーロン・ブーン(兄はイチローの初期チームメイトのブレット・ブーン)。彼らの父がレイ、祖父がボブ。この4人は全員オールスター戦に出場している超優秀にファミリーだ。三代メジャーリーガーとなると、さすがに数が減る。他にはベル親子孫、コールマン親子孫、ヘアストン親子孫…くらいしかいない。
メキシコマットで、いや、世界で最初に親子孫でプロレスラーになったのはアル・アメスクア、アルフォンソ・ダンテス、セサール・ダンテス&アポロ・ダンテス兄弟の三代だろう。
祖父アル・アメスクアは1937年デビューのグアダラハラ最初のルチャドール。息子のアルフォンソ・ダンテスがNWA世界ライトヘビー級王座5度獲得のレジェンド。次男のアポロ(ホセ・ルイス・アメスクア・ムニヨス)は1988年12月デビューなので、この瞬間に親子三代が成立した。ゴリー・ゲレロの孫チャボ・ゲレロJr.がデビューしたのが1994年で、ボブ・オートンの孫ランディ・オートンのデビューが2000年だから、アメスクア一家はかなり早い。アポロは1992年に父と同じNWA世界ライトヘビー級王者になり、2000年にCMLLジャパンに初来日している。
2013年9月に私はアレナ・コリセオ・デ・グアダラハラでアポロに再会した。その時、彼は現役を引退して、ミル・マスカラスがデビューし、サトル・サヤマが世界王者になった伝統のこの会場のプロモーターをしていた。コリセオ内の事務所で祖父アル・アメスクアと父ダンテスに関する私のインタビューした後、アポロは当日開催の会場内をいろいろ案内してくれた。
その時、後ろからチョロチョロ付いて来る8歳くらいの少年がいた…。アポロに「アナタの息子?」と聞くと「そうだよ」と笑う。「ルチャドールにするの?」と聞くとアポロは「ノー」と首をすくめた。私は思わず「キミ、何でルチャドールにならないんだ!?やりなよ」と、その子に詰め寄ってしまった。なぜなら、彼こそが世界最速で4代目プロレスラーになる可能性を秘めた子だったからである。少年は「ノー」と首を振る。横で親父のアポロは「ルチャには興味がないみたいだ」と苦笑いしていた。一番ガッカリしたのは私だった…。
ところがである。その後、私は4代目レスラーの存在を発見した。1939年にメキシコ初のNWA世界王者(ミドル級)になったオクタビオ・ガオナ。そのひ孫がルチャドールであることを突き止めたのだ。オクタビオ・ガオナの長男は1951年にデビューしたオクタビオ・ガオナJr.。彼は残念ながら二流選手だった。最高位は1976年6月にダニー・クルスからクアウティタランで奪ったメキシコ州ヘビー級王座。父親が歴史に残る最初の世界王者だったことを思うと、かなり開きがある。ちなみにこの偉大なオクタビオ・ガオナSr.が後年、養子として家族に迎え入れたのが、1983年3月に新日本へ来日したタンバ(アブドーラ・タンバ)である。
2代目となるJr.の子が3代目のアルトゥーロ・ガオナで、1970年代後半に2代目と親子タッグを組んだりしたものの、目立たないローカル選手に終わる。そのまた長男が2005年にデビューした“4代目!!”となるアルトゥーロ・ガオナJr.である。彼もまたローカル選手だったこともあるし、現地で4代目としてニュースにもならなかったので、私自身ノーマークであった。
彼こそおそらく世界最速の4代目レスラーであろう。しかし、これをMLBに当てはめるならば、ダンテスのアメスクア親子孫は全員がメジャーリーガーだが、ガオナ一家の4代は曾祖父のオクタビオSr.以外はマイナーリーガーだったことになる。
現在、ビジャノスやブラソスの息子たちなど3代目ルチャドールたちが当たり前のように試合をしている(筆頭はブラソ・デ・プラタの息子のサイコ・クラウン)。いずれ彼らの息子たちが4代目として登場するであろう。すでに4代目であるアルトゥーロ・ガオナJr.は現在33歳。彼にどんな子供がいるのか定かでないが、もし20歳の時の子供がいれば現在13歳…最速で来年にも5代目が登場するという机上の計算になる。
これを先週のようにサラブレッドの血統理論に当てはめると、2代目が初代から50%の血を受け、3代目は25%、4代目になると12.5%、5代目だと6.25%と薄まっていく。同時に曾祖父ガオナへの記憶も薄まっていく。父方か母方の3代目と4代目に同じ血が入ったインブリード(近親交配)の場合、出来た仔は18.75%の血を持つ…これは名馬を作るための「奇跡の血量」といわれているが、人間社会ではあり得ない。
もし近い将来5代目のガオナが誕生して、彼がメジャーリーガー(CMLLかAAAのレギュラー)になったとしたら、こんな血のドラマ、奇跡はあるまい。いつ、何処で、どんな血の奇跡が起こるかわからない。だからこそ、競馬も、MLBも、ルチャも、歴史あるものは、途中で投げ出すことなく長く見続けなければならないのである。