旧・ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

【第530回】恐るべきブラッドプロレス(1)

 今週はいきなりドヤ顔で…「やった!」。日曜日に日本ダービーで私が先週推した愛馬シャフリヤール(4番人気)が優勝した。これで2020~2021シーズンのPOGは私の逆転優勝。こういうこと書くと「馬券でいくら儲かったんですか」と聞いてくる。そんなことはどうでもいい。2019年に生まれた日本のサラブレッド約7400頭の中から私の選んだ1頭が頂点に立ったのである。儲けた、損したのレベルの話ではなく、7400/1を引き当てた私の相馬眼に拍手を送ってほしい(ドヤ!)。「ドクトル・ガバージョス」の本領発揮…と言ったところか。「カバージョ」はルチャの世界ではラクダ固めのことだが、スペイン語で「馬」のことです。

※ドクトル・カバージョス、東京競馬場で祝杯。

「どうせ競馬はギャンブルでしょ」という言葉と「プロレスはどうせ八百長でしょ」という言葉は同じように聞こえる。みんな八百長の意味を知らずにその一言で片づけようとする。競馬は単なるギャンブルではない。発祥地イギリスでは「スポーツ・オブ・キング」であり、世界的には「ブラッドスポーツ」である。1791年(寛永3年)に「ジェネラルスタッドブック」が英国で発行されて以来、世界中のサラブレッドの血統と競争成績は一体化した。プロレスで言うならば、プロライセンスと公式の熱戦譜が一緒になったようなもの。「何処の馬の骨」という言葉は血統書のあるサラブレッドの世界では通用しない。ドクトルの頭の中には3世紀にわたる血のドラマとデータが蓄積されているのです(その分、レスラーの名前や実績が抜けていくが…)。

 NHKの『ファミリーヒスリー』じゃないけど、私から皆さんに問いたい。「アナタは自分の祖父や曾祖父、高祖父の名前や職業を知っていますか?」。私は清水家3代前まではわかる。でもサラブレッドならば8代~10代前くらいの父系の名前と、その馬の競争成績が頭に入っている。それこそ血統を長年蓄積、研究してきた成果である。血は人が育む。世界中のホースマンたちはこの300年間、グレードの高い競争によって淘汰を繰り返し、選りすぐりの名馬の血だけを残して、名血と名血をかけ合わせて来た結果が今日の競馬に築いているわけだ。

 以前にも述べたように日本のプロレスで親子レスラー、兄弟レスラーは極めて少ない。それに比べると、アメリカマットには親子、兄弟でレスラーを職業にしている者は多い。シャープ兄弟、バション兄弟、ザ・ファンクス、ブリスコ兄弟、マレンコ兄弟、エリック兄弟、スタイナー兄弟…いっぱいいた。アメリカには偽者の兄弟もたくさんいた。

 そこを行くと、メキシコマットは親子、兄弟、姉妹、叔父さん、従兄弟、義兄弟、夫婦…ファミリーならば誰でもルチャドールの血縁王国だ。私がルチャ・リブレの世界に惹かれたのは、入口はミル・マスカラスでも、ブラッドプロレスであったという点だろう。息子が父を超えようとし、弟が兄のためにリベンジしようとするドラマこそがルチャの醍醐味といえる。

 サラブレッドの場合、同じ父親が作った仔たちを兄弟とは言わない。徳川将軍が正室・側室に産ませた多くの子供たちは兄弟なのだが、同じように1年間で多くの種付けをする種牡馬の場合、出来た仔たちを産駒と言うが兄弟とは呼ばない。たとえば2018年の2月から6月の種付けシーズンに約230頭強の牝馬と交配した人気種牡馬ロードカナロア…翌2019年に215頭の仔が生まれて競走馬登録された。競争年齢2歳馬となったその215頭は来週からデビューする。これでは人間の世界だと1年に215人の兄弟が出来てしまうことになる。牝馬は1年に1回の出産で1頭しか生まない(稀に双子もあるが)。馬の場合の兄弟姉妹とは母親が同じである馬のことを指す。

 レイ・メンドーサの子=ビジャノス(1~5号)、シャテディト・クルスの子=ロス・ブラソス(ブラソ・デ・オロ、エル・ブラソ、ブラソ・デ・プラタ、ロビン・フッド=ブラソ・シベルネティコ、ジージョ・ロック=スペル・ブラソ、ブラソ・デ・プラティーノ)など子沢山ファミリーだ。彼らは父親も、母親が同じなので、競馬では全兄弟という。つまり「ブラソ・デ・プラタはブラソ・デ・オロの全弟」。逆の場合は全兄となる。全兄弟とは100%同じ血が流れる兄弟のことをいうという。

※ビジャノス成功は父親よりも母ルピータ・メンドーサのお陰?

 サラブレッドは場合、腹が同じならば、種が違っても兄弟なのだ。父親が違う兄弟を「半兄、半弟、半姉、半妹」と言い、血量が50%同じ兄弟である。たとえば母馬の今回のお相手となる種馬が前回付けた種馬の父親や息子だった場合、生まれて来た仔は前回生まれた兄か姉と75%同じ血を持つことになる。その逆で、種馬から見て、今回交配する相手が前回の母から娘になった場合、あるいは娘から母になった場合、これも75%同じ血の弟か妹が生まれる。これを「4分の3兄弟」という。サラブレッドではよくあるカップリングで、兄姉が優秀ならば優秀なほど好まれる血の濃さを求める配合といえる。これは人間社会ではあってはならない行為である。

 グラン浜田は最初の奥さんビッキーが連れ子だったため、ソチ浜田と浜田文子は半姉と半妹ということになる。そのソチはシルバー・キングとの間に男の子が生まれるが離婚。ソチはペンタゴン・ブラック(元メタリコ)と一緒になってその男の子を育てて、シルバー・キング・ジュニアとしてデビューさせる。ソチとペンタゴン・ブラックの間にも男の子が出来る。シルバー・キング・ジュニアの半弟というわけだ。もしこの子がルチャドールになれば、恐らく初であろう「半兄弟コンビ」となる…。

 レディ・アパッチェはグラン・アパッチェ→ブラソ・デ・オロ→エレクトロ・ショックと次々に結婚相手を変えていく。彼女と3人の夫たちにはそれぞれ女、女、男と一人ずつの子供がいるが、誰もルチャの選手にはなっていない。ちなみにファビー・アパッチェとマリー・アパッチェの姉妹はグラン・アパッチェの前妻の子供たちである。AAAでこの姉妹とレディ・アパッチェが組んだ時には、「大丈夫かい」と心配したが、それは取り越し苦労で、基本的にファミリーという括りで、前妻の子と後妻は仲が良かった。

 メキシコ女子で有名なファミリーといえばモレノ姉妹(ロッシー、エステル、シンティア、アルダ)。シンティアとアルダの間には全弟のエル・オリエンタルがいる。つまり女、女、女、男、女の順番でルチャドーラとルチャドールになった姉妹弟だ。父親のアルフォンソ・モレノはレスラーではないが、東京オリンピックの柔道の審判だった人物。帰国後、ルチャの独立プロのプロモーターとなったアルフォンソは手造りの会場(兼自宅)に「アステカ・ブドウカン」と名付けた。そして東京五輪の翌年に生まれたのが長女のロッシーである。会場で生まれ育った姉妹弟がルチャの選手になるのは必然といえる。

※右からロッシー、アルダ、シンティアのモレノ姉妹。

 2005年だったかオリエンタル(ノエ・モレノ・レオン)にファミリーのことを聞く。すると「レスラーになったのは5人だけど、俺たちは12人兄弟なんだ」という答えが返って来た。メキシコは大家族だから、「へーっ、そうなの…」といった感じで受け止める。その時に隣にいた小柄な選手(名前を忘れた…)が、「自分もオリエンタルの兄弟だ」と言い出した。すると次に彼は驚くべきことを口にした。「僕はオリエンタルの母親とは違う兄弟なんです。オリエンタルの母親は父アドルフォとの間に12人の子供を産んで、僕の母との間にも12人の子を産みました。そして3人目の奥さんとの間にも12人の子供がいるんです」。

 えええっ、ナニそれっ!だよね。アドルフォは3人の奥さんにそれぞれ12人ずつ、計36人の子供がいるというわけ! そんなあ! でもオリエンタルはニッコリ頷いて「本当だよ。だけど、兄弟はこうして、みんな仲がいいんだよ」。ルチャではなく、半兄弟姉妹の3チームでサッカーの三つ巴戦、キリンカップみたいなことができるじゃないか。アドルフォ・モレノ…恐るべき酋長、いや、驚異のスタリオンである。でも、さすがメヒコ、殺伐感なしで、実におおらか…。これがもし日本だったら泥沼一家だよ。

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