ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

【第588回】撃墜された急降下爆撃機

18日は武道館で全日本プロレスの50周年記念大会が行われた。その2日前にはメキシコでも創立記念大会(アニベルサリオ)が行われている。CMLLの89周年記念大会である(毎年9月の第3金曜日開催が昔からほぼ定番)。今年のメインは4チーム(8人)による負け残りトーナメントで最後に残った1チームのパートナー同士が戦ってマスクを脱ぐか、髪の毛を切るというルール。最初から1対1のマスカラ戦でないのは、それだけ大ネタがいなくなっている証拠…それを数でカバーする手法だ。その結果、アレナ・メヒコが久々の超満員札止めになったというのだから、ヨシとしなければならない。近年、外国人の観光客ばかりが目立つアレナ・メヒコが地元のルチャ・ファンで満杯になったというのは嬉しい次第である。いいカードを組めば、ちゃんと客は来るのだ。

ストゥーカJr.の爆弾トペ。(CMLL)

 サバイバルの末、最後に残ってマスクを懸けて戦ったのはアトランティス・ジュニアとストゥーカ・ジュニア。父譲りのアトランティーダで前者が勝ち、後者は敗れてマスクを脱いだ。4年前、アトランティスの自宅でインタビューした時、父親の客人である私に気を遣ってコーヒーを出してくれた青年(息子)が今ではアニベルサリオの主役になっている…時代の流れを感じてしまった。敗れたストゥーカ・ジュニアは、2014年1月に新日本に初来日以来、何度も来日して棒状トペやエル・トルペド(背面プランチャ)など華麗な空中殺法で人気の高い選手。本名はオマール・アルバラド・ガルシア、1979年7月17日、ドゥランゴ州ゴメス・パラシオ出身の43歳(見た目の雰囲気より歳…)。デビューは2002年で、ジュニアと名乗っていても、1980年代半ばに活躍したストゥーカの息子ではない。15歳も離れた実弟なのだ。

アトランティスJr.時代が始まる。(CMLL)

今回、弟のセコンドに付いた実兄のストゥーカ(ショエル・アルバラド・ガルシア)は、1978年にゴメス・パラシオで素顔のジョエル・ガルシアの名でデビューしているから、弟のオマールは、その翌年生まれたことになる。1983年7月に兄はマスクマンのストゥーカに変身する。その頃、EMLLでは“アカプルコの青い翼”リスマルクの全盛時代。リスマルクがドイツ軍の巨大戦艦「ビスマルク」から名付けられた名だったので、彼は第二次世界大戦でドイツのユンカース社が開発した急降下爆撃機「Ju87シュトゥーカ」(日本語だとスツーカかストゥーカ)とリングネームを付けられた。この2人乗りの爆撃機は逆ガルの両翼と固定脚の車輪が特徴的で、トペ・アトミコのように上空を高角度から急降下して目標に1点で250キロ爆弾を投下する恐ろしい奴だ。そうそう、私が幼稚園から小学生低学年の頃は、戦争ブーム(?)で、少年マガジンやサンデーの巻頭は戦車や戦艦、戦闘機が常に特集され、それをむさぼり読んだ。ドイツ軍ならパンサー戦車やメッサーシュミットBf109、そしてストゥーカのプラモデルも買って作った。デザイン性よりも性能重視で頑強そうなドイツ軍ものが子供心に好きだった。そういえば西ドイツのクラウス・カーロフが来日した時、国際プロレス(70年9月)は勝手に「メッサーシュミット」を名乗らさせた。宣材写真を見て地味そうな選手だったから菊池孝さんが出したアイディアだったと聞く。

そう、ストゥーカといえば急降下時の風切り音は「悪魔のサイレン」と連合軍から恐れられ、後年に威嚇音を出すサイレン装置やホイッスルを装着して地上にいる人間の恐怖をさらに煽ったという。ルチャドールのストゥーカのマスクはパイロットの飛行ヘルメットとゴーグルがデザインされ、耳の部分にドイツ軍の象徴である鉄十字章(EK=エー・カー)が入っていた(ナチの兵器でも彼はリンピオ…)。では、蛇がデザインされているのはなぜか…これはガラガラ蛇で、前述の威嚇音によって恐怖を煽るストゥーカの特徴を表現している。またリスマルクが基調とする青は海を表現し、ストゥーカのブルーは青空を表している(メキシコ版の空海か…)。「ルチャ・リブレ」とは、単にマスクのメーカーどうのとか、素材がどうのとか言っていては本末転倒…不勉強すぎる。一人一人のリングネームや選手の出で立ち、マスクのデザイン等に秘められた意図などを読み解かないと、キャラクターの真の姿が見えて来ない。ストゥーカはそのいい例だ。

実兄ストゥーカの急降下爆弾。

兄のストゥーカは1991年8月1日、モンテレイでのイホ・デル・サント、ペロ・アグアヨとの三つ巴戦をやって、最後にアグアヨと敗れてマスクを脱いだ。15歳年下の弟オマールは、それから31年後にマスクを取られたことになる。まさに大河ドラマである。来年のアニベルサリオは90周年記念の節目の大会だから、出来たら行きたいなあと思っている。1年後、世界中のコロナはどうなっているのだろうか…。今回のトーナメントでアトランティス(父)vsフエルサ・ゲレーラのマスカラ戦は回避されたが、今なお抗争中。フエルサは40年も続くアミーゴだから最後を見届けたいけど、年内にこの大勝負やってしまいそうな気配だなあ…。私が行くまで待っててよ。

このカードのマスカラ戦は見たいなあ(CMLL)

と思ったら、19日にメキシコのコリマ州とミチョアカン州を震源としたマグニチュード7.6の大地震が起きた。コリマに居るTNT(ホセ・グアダルーペ・アギラール・エレーラ)が心配だ。TNTは新日本プロレスに初めて来日した純血メキシコ人である。その1973年『闘魂シリーズ』では大蛇(ボア)を持参して「アナコンダ」と名乗らされた。1978年には“ナチの親衛隊長”エル・ナシを破ってナショナル・ヘビー級王者になっている。マスカラスと同郷(サンルイスポトシ)の先輩で、11月で85歳になる(ルペは心優しいとてもいい人です)。安否確認のメール入れたけど、まだ返信がない…。この数年は寝たきり生活だから余計心配だ。

TNT…無事でいてほしいよ。

 それにしても9月19日は恐ろしい。1985年にはM8.5の大地震が起きて1万人弱の死者 が出た。翌日のアニベルサリオは中止で、アレナ・メヒコは12月まで閉鎖した。以後、9月19日は日本で言う“震災記念日”となる。そして2017年の同日、32年前の大震災の追悼式や学校、職場で避難訓練をやっている最中にプエブラ州とモレロス州付近を震源にしたM7.6の大地震が発生した。首都メキシコシティでも20以上の建物が倒壊し、300人超の死者が出ている(同日のアレナ・メヒコ大会は中止)。そして二度あることが三度起きた!今年も9月19日、避難訓練中にまたまた起きたのだ…。グアダラハラも震源地から近いから心配…。日本に居てもコロナやら台風やら危ないことが多いけど、アニベルサリオを観に行くのも、もう命がけである。

いよいよ来週水曜日発売。

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