本当はもう一回、ボクシングのことを書いて終わりにしようとしていたんだけど、とんでもないニュースが立て続けに入って来たので、これらを触れないわけにはいかない(ボクシングものは後日)。ということで短めに仰天ニュースと、それに関する簡単なコメントを記したいと思う。

最初に入って来たのは、WWEによるAAAの買収。これは驚いた。ラスベガスで開催していた『レッスルマニア41』の期間中にWWEの戦略部門最高執行委員であるハンター・ハースト・ヘルムスト(HHH)とAAAのマリセラ・ロルダン・ペーニャ社長、息子のドリアCEOが出席して発表されたので、もうみなさんニュース等でご存知の事と思う。1992年5月にアントニオ・ペーニャが立ち上げたAAAは、世界戦略を合言葉にワールドワイドなエンターテイメントパッケージを売りにメキシコからアメリカ、日本へと打って出た。世界を見据える…そこが老舗のCMLLと大きな違いだった。94年には新日本と、98年にはWWFと提携したこともあった。ペーニャの死後はホアキン・ロルダン、ダミアン・ロルダンらファミリーが遺志を受け継ぎ、2014年には『ルチャ・アンダーグラウンド』という北米向きの新ブランドを立ち上げるなど、常に視線はアメリカを向いていた。そのAAAがWWEに身売りとは…。旗揚げからずっとこの怪物団体を観て来た私としては何か寂しいが、これも時代の趨勢というものだろう。天下統一を目指す織田信長の配下に入った三河の徳川家康って感じか…。会場で巻き起こった大きなルチャ・コールの波…あれを聞くと、「ああ、メキシコのルチャはAAAによって世界に認知されたのだなあ」と思う。それはレイ・ミステリオ、エディ・ゲレロらが先鞭をつけ、信用を勝ち取ったといえるだろう。6月7日にはロスでAAAとの合体興行第一弾が開催される。メキシコ国内でのAAAは今後どうなるのか、今年の『トリプレマニア』はどうなるのか。わからないことがまだまだ山ほどある。ドリアンにも改めて聞きたいことがあるし、近々探りを入れてみよう。

そして次に飛び込んできたのがブラック・テリー(エステバン・マレス・カスタネーダ=72歳)の訃報。26日に久々に来日して27日には『ルチャ・フィエイタ・エスペシャル』両国国技館で試合をするはずだったのに…(エル・サタニコと組んでネグロ・ナバーロ&エル・パンテーラ)。緊急入院先の病院で胆嚢破裂により亡くなった。まさか、まさかの来日直前の他界…。

私はブラック・テリーがブラックマンからUWA世界ライト級王座を奪った81年9月30日のパラシオ・デ・ロス・デポルテス大会を取材している。彼にとってルチャ人生で最も晴れがましい舞台だった。私とテリーの繋がりはそこから始まり、ロス・テメラリオスとなってユニバにも来日し、そこから一度もセミリタイアすらすることなく現役を続けたすごいレジェンドだ。昨秋、サントの興行の現場で一緒になった愛息のブラック・テリー・ジュニア。彼はプロのカメラマンで、単独でも来日する大の親日家。「トマスはトレオ(UWA)の写真を持っているの?」「ああ、ポジを何冊ものファイルで持っている。キミのパパがブックマンを破った試合も俺が写真を撮っているよ」と言うと「わおーっ、凄い!」と感激していた。彼らの40歳世代の人間たちからすると90年代半ばに崩壊してしまったUWAの全盛期(75~88年頃)は、おとぎの国の話なのだろう。テリーの訃報をユニバーサル・レスレング連盟の新間寿恒元代表(私は恒ちゃんと呼んでいる)に伝えると「えっ、本当に。とってもいいルードだったよね」と寂しそうにポツリ。ブラック・テリー、ホセ・ルイス・フェリシアーノ、シュー・エル・ゲレーロのロス・テメラリオスを90年3月の旗揚げメンバーに入れたセンスは、流石だった。ブラックマン、浅井嘉浩、スペル・アストロ、ケンドーらを活かすには、テメラリオスの力が必要不可欠だったからだ。26日に再会するのを楽しみにしていたのに…。Descanse en Paz

そして月曜日の夕方に恒ちゃんから「父が18時47分に旅立ちました」という一報が届く。まさか…えっ…である。なぜならば、日曜日の午前中に小佐野景浩くん、小林和朋くんとともご自宅にお見舞いに行って病床の新間さんと1時間半くらいプロレスの昔話をしていたからだ。危篤だからとお聞きして駆け付けたのに、声は小さくてもしっかり口調で昔話を楽しそうにしていたのに…。これならばまだしばらく頑張れそうだと思って「また、来るね」と声を掛けて帰って来たばかり。もう一度、一人で火曜日にご自宅へ行こうかなと思っていたら…あっけなく旅立たれてしまった。「お前たちのお陰で本当に楽しいプロレス人生を過ごせたよ。我がプロレス人生の悔いなしだな」と何回も繰り返していたのが耳に残る。

残念だけど、仕方ない…。お父さん、いろんな夢をありがとう。天国で“櫻井のデブさん”と“竹内の坊や”と仲良く、次の仕掛けを考えてください。今度はお父さんのために私が般若心経を唱える番です。合掌。